NHKがシステム開発を委託していた日本IBMに対し、開発の遅延による契約解除に伴い計約55億円の代金の返還と損害賠償を求めて東京地裁に提訴した係争事案。NHKは、日本IBMが開発の途中で突然、NHKに対して大幅な開発方式の見直しと納期遅延を要求したと主張しているが、これに対し日本IBMは7日、以下のリリースを発表して反論したことがIT業界内で注目されている。
NHKと日本IBMの係争に関して、上記は現時点で最も詳しい記事のように見えるが、憶測が強すぎる内容だったので改めて考察してみる。そもそも、日本IBMの本社は現在虎ノ門に移転している。
一つ気になるのは、現行システムは富士通のメインフレームが使われており、更新作業も富士通が担うというのが自然な流れですが、富士通が受注しなかったという点です。
記事中のこの記載に答えがある。富士通のメインフレームは2030年度末に製造が中止され、2035年度末には保守が終了となる。
IBMがメインフレーム「S/360(System/360)」を発表してから2024年で60年。「還暦」を迎えたメインフレームのモダナイズ競争が激しくなってきた。富士通は2030年度末にメインフレームの製造・販売から撤退し、5年後の2035年度末に保守を終了する。2022年2月の発表から2年半余り経過したが、2024年7月時点で320社、650台の富士通メインフレームが国内で稼働している。この650台のモダナイズ案件の獲得に向けて、富士通をはじめSIベンダーやメガクラウドベンダーを巻き込んだ争奪戦が展開されている。
まさに、この650台のうちの1台が現行システムということになる。モダナイズする際に日本IBMが何をキーテクノロジーにしたかは不明だが、日本IBMはもちろんメインフレームを維持している。この点で次期システム基盤および開発ベンダーとして採用されたのではないか。もちろん推測ではあるが。
IBM® z16は、オンチップによるAI推論と業界初の耐量子テクノロジーを備えた、IBM Zメインフレーム製品の最新版です。
今回の損害賠償額が55億円というのが巨額であり、開発実行のためにハードウェアを調達し設置、利用を開始し始めていたのでは、と想像している。
もし、単なる要件定義終了段階としての巻き戻し(それまでにかかった費用の請求)だったなら、金額があまりにも大きすぎる。
ただし、日本IBM側のリリースには気になる記載もある。
本プロジェクトは、NHK指定の移行方針のもと営業基幹システムを新しい基盤へ移行するものであり、プロジェクト開始後に現行システムの解析を実施の上、移行方針及びスケジュール等を確定するという契約に沿って検討を進めてまいりました。
移行方針及びスケジュール等を確定するという契約なら、ハードウェアはまだ契約していないという解釈もできる。しかし、そうなると、やはり55億円の根拠はなんだろうか。要件定義だけで55億円?。
一方で、NHKのリリースも見てみよう。

この文を読むと、「新システムの開発方式を定め、1年2ケ月以上業務を進めていきましたが」とあり、要件定義時期を超え、既に開発工程に入っていたようにも読める。
NHKの主張としては、もうハードウェアも買っていて日本IBM側で既に開発も進んでいたのに、途中で日本IBMが納期の延期を申し入れて来た、と言う主張ではないのか。
日本IBM側の主張としては、スケジュールは要件定義後に両社で合意することを前提としていて、まだ合意が取れていない段階にリリース時期の設定を申し入れた、と考えているにも関わらずである。
両社のリリース内容の記載が全く異なっているのと、巨額の損害賠償額の算出根拠が不明な状況で、これ以上外野がどういう言うのは不毛だ。どちらの見解が事実寄りなのかは、それこそ裁判で明らかになる。
最終的にはこの件の顛末は明らかになると思われるので注目したい。